3.飼養管理-哺育期・育成期の飼養管理
ポイント
発育のパターンに合わせた飼料給与
- 生後4か月まで体高の伸びが最大
→タンパク質含量の高い飼料(スターターなど)
- 4か月以降体重増加が最大
→TDN(エネルギ-)含量が高い飼料(育成用飼料など)
哺育期は寒冷に弱く、病気も多発
■ 肉牛の発育過程
中枢神経 → 骨 → 筋肉 → 脂肪(腎臓周囲、筋間、皮下、筋肉内(サシ)の順)の順で発育
骨格 生後~11か月齢ごろ7割
第1,2胃3~13か月齢ごろ7割、
筋肉量約3~18か月齢、交雑脂肪約12~23か月齢に集中
(1)哺育期の管理
ポイント
初期に大きく増体、管理の要否はその後の生産性を大きく左右し、発育のよい牛は枝肉重量も重い、哺育牛は寒冷に弱い
哺育のスタート
衛生的な環境で十分な初乳を給与し、冬場はしっかり保温します
初乳は免疫グロブリンやビタミン、タンパク質などが豊富です。
新生子牛で不足するビタミン剤、鉄剤の投与、生菌剤投与も検討します。
*母牛の栄養管理、ワクチン接種は、子牛の管理上も重要
黒毛和種の初乳の成分

久米新一 子牛の栄養・代謝の特異性
家畜感染症学会誌2巻2号 2013から作成
子牛は、体表面の割合が大きく、皮下脂肪も少ないこと、加えて第一胃も未発達なことから寒さに弱いといわれています。
分娩時はリッキング、粘液拭き取りを、その後も、風よけ・換気、乾燥した敷料を準備し、ジャケット、ヒーターの利用や温水給与も有効です。
哺育期の発育と枝肉重量の関係
生後1週間の管理がその後の発育を左右する
生後1週間の発育が良 → 離乳までの発育も良
哺育期(10週齢)におけるDGと枝肉成績の相関関係
哺育期に発育が良い牛は枝肉重量も高い
哺育期DG 01.kg/日改善 ⇒ 枝肉重量12kg増
全農畜産生産部作成 2019年
令和元年度和牛アカデミー「哺育期・育成期の管理について」全農飼料畜産中央研究所から
疾病の発生時期、初乳給与時間と免疫グロブリン濃度
図1 黒毛和種の月齢別の死亡頭数(2018年度)

出典:2018年度「(独)家畜改良センターデータ」より作図
図2 初乳の給与時間と血中免疫グロブリン濃度の関係

ちくさんクラブ21 Vol.135 2021 8から
乳成分の推移と全乳との比較

Newstead 1976

初乳計による測定
(根室農業完了普及センター資料より)
令和元年度和牛アカデミー「哺育期・育成期の管理について」全農飼料畜産中央研究所から
子牛の死亡事故の大半は生後2か月まで。
初乳は常乳に比べ蛋白質、脂肪含量が高くビタミン類や無機物も豊富。子牛にはほとんどビタミンAの貯蔵がなく、母牛への分娩前後のビタミンAを補給にも留意。
感染への抵抗力を与える免疫グロブリンのほとんどはIgGで血中への取り込み能力は生後6~8時間が最大で12時間以降に急速に低下。
防寒対策の基本とカーフジャケット、電熱マフラーの効果
■ 防寒対策の基本について
一般的な対策は次のとおりです
- 乾いた牛床(敷料のこまめな交換、特にお腹を冷やさない)
- すきま風対策、休息場所上部をシートで覆う
(ただし、アンモニアがたまるので換気は重要)
- 厚く敷いたワラ(「おが粉」よりもワラは空気を含み暖かい)
- 家畜用ヒーター、保温マット、牛床マット
- 湯たんぽ(消毒薬の空容器にお湯を入れる)

カーフジャケットありの牛(左)は
四肢の先端の表面温度が高い

電熱マフラーを装着した牛(左)は
四肢末端の表面温度が高い
カーフジャケットは冬季に分娩された子牛の体温を保持する効果があり、特に、母牛とともに飼育しており、子牛の保温が難しい場合など、飼育環境が良好でなく、子牛の適温を保持できない場合などにおいて、防寒対策として有効。
電熱マフラーは、四肢末端の体表温の保持に影響すると考えられ、冬季に分娩された子牛、低体温の子牛、震えのある子牛、治療中の子牛などへの装着は防寒対策として有効。まずは、当初の「防寒対策の基本」をしっかり実践した上で、ネックウォーマーやカーフジャケットを活用することが重要だとしています。
岡山県農林水産総合センター畜産研究所「カーフジャケット,電熱マフラーによる子牛の防寒対策」(令和3年)から
哺乳状況の確認、代用乳の利用
母牛の栄養管理に注意し、哺乳状況を確認。不足が疑われる場合は代用乳も利用します
母乳の乳量はばらつきがあり母牛の産次でも異なリます(5産目あたりがピーク)。
親付き飼養での母牛の栄養管理は母乳の量、質を左右し重要です。
頻繁に乳頭を吸いに行くなど不足が疑われる場合は代用乳も給与します。
母牛が栄養不足(痩せる)の場合は乳質が低下し子牛が下痢を起こすこともあります。
代用乳給与では、清潔な吸い口のついた哺乳瓶、哺乳バケツを利用、成長に合わせた乳首の切り口、温度に注意(給与時40℃、溶解時45℃)します。
黒毛和種における泌乳量と産子の日増体重
黒毛和種における産歴別の泌乳量(1993年)
島田ら、中国農業試験場研究報告(1993)
供試牛:1982年~1986年に中国農試畜産部飼養牛
肉用子牛の自然哺乳下での日増体重の推移
島田ら、中国農業試験場研究報告(1993)
供試牛:1982年~1986年に中国農試畜産部飼養牛
泌乳量は産次、分娩後の経過日数でも異なり、初産牛、高産歴牛で少なく、分娩後徐々に低下。自然哺乳下では初産産子の増体は低い。
代用乳補充、哺乳量増量の効果
「哺育育成期子牛の栄養管理が発育に及ぼす影響」都城地区農業共済組合後藤(日本家畜臨床感染症研究会誌2009年)から
表1 自然哺乳において代用乳補充が子牛発育に及ぼす効果
自然哺乳で代用乳を補充した子牛は母乳とスターター(飽食)で飼育した子牛より体重、体高とも大きく、泌乳量が発育能に対して不足していたことが疑われ、哺乳期の子牛が欲する食餌は乳であり、スターター給与では補いきれないとしている。
表2 人工哺乳において哺乳量増量が子牛の発育に及ぼす効果
人工哺乳で推奨量(当時)の倍量の代用乳を給与したところ、DGの増加、肺炎の発生が減少し、セリ値にも影響。給与量増加によるコスト上昇を上回る効果が得られたとしている。
人工乳、粗飼料の給与開始
5~7日目くらいからきれいな水と一緒に人工乳の給与や粗飼料の給与をはじめます。
タンパク質の豊富な人工乳(スターター)や粗飼料は、骨格の発達や反芻胃の発達(第一胃の絨毛発達)、腸内細菌叢の改善に重要です。
人工乳は子牛だけが入れるスペースを作り、新鮮な水と合わせ給与しその量を徐々に増やし、毎日残餌は除きます。
食べない子牛に口に入れたり砕いたものを鼻に付けて味を覚えさせます。
粗飼料はやわらかいもの(握っても痛くないもの)を2~3cmに細断したものを給与。遊び食いくらいからはじめます。
■ 人工乳や粗飼料、水による第一胃(ルーメン)の発達
人工乳の摂取により
- ルーメンへの様々な微生物の定着
- ルーメン発酵によりできた揮発性脂肪酸(VFA:酢酸・プロピオン酸・酪酸など)の化学的刺激により、ルーメンの絨毛が発達
乾草の摂取はルーメン筋層を物理的に刺激する。
水(お湯)は人工乳の発酵、ルーメン微生物定着に必要新鮮な水の給与は人工乳摂取量増加につながる。
ルーメン絨毛の発達(6週齢)

令和元年度和牛アカデミー「哺育期・育成期の管理について」全農飼料畜産中央研究所から
■ 早期母子分離・人工哺育の実施
コスト、手間はかかるが、乳量の調整も可能で発情回帰も早まる。
5日齢程度で母子分離する場合は段階に代用乳に切り替え。母乳6kgが代用乳1㎏に相当し段階的増量。
代用乳の給与量の調整で固形飼料(人工乳をしっかり食べさせていく)の給与量の調整も可能。
高タンパク、低脂肪の代用乳を1日1㎏から1.2㎏程度まで、最近では一時2kg程度まで増量し哺育期の増体を高める強化哺育を行う例も増えているが、人工乳、粗飼料の摂取が抑制されることがあり、その際の減乳、離乳は、摂食状況もみながら時間をかけて行う必要。
群飼、哺乳ロボット利用では、群飼に早くから慣れ活動的で競争意識から飼料の摂取量が増えることが知られているが、一方で感染症のまん延リスクもあり機器の管理と合わせ衛生管理に注意。
人工哺育における飼料給与例

日本飼養標準肉用牛(2022)から
離乳の手順
2、3か月齢で人工乳をしっかり食べるようになったら徐々に哺乳量を減らし離乳します。
離乳後に栄養不足にならないよう人工乳を1、2kg食べるようになったら(人工 乳1kgは母乳4kgの栄養分に相当)、母子分離の時間を伸ばす、母牛への濃厚飼料を減らす、哺乳量を減らすなどして1~2週間程度かけて段階的に行います。
この間に人工乳の摂食量を増やし、その後は段階的に育成用濃厚飼料への切り替えます。
人工乳の食い込みが遅い牛は場合によっては哺乳を延長。離乳がうまくいくと子牛は鳴きません。
高タンパク、低脂肪の代用乳を1日1kgから1.2㎏、あるいは2kg以上給与している場合はさらに時間をかけて減量し人工乳をしっかり摂食させ増体を維持します。
離乳、育成開始時の飼料給与例(人工哺育)

日本飼養標準肉用牛(2022)から
日本飼養標準では、体重80kg以上の子牛では、体重の2~2.2%の濃厚飼料と良質乾草の不断給餌で1日増体量0.8kg以上が期待できるとしている。
磯崎ら, 肉用牛研究会報(2022)から
■ 事例報告
黒毛和種子牛強化哺育時の人工乳摂取量増加のための代用乳・人工乳給与プログラム
福岡県農林業総合試験場 福岡県筑紫野市 〒818-8549
現福岡県中央家畜保健衛生所 福岡県福岡市 〒812-0051
【要約】
黒毛和種雄子牛強化哺育時における人工乳摂取量の増加をさせる代用乳および人工乳給与プログラムについて検討するため、当時または県内で生産された黒毛和種種子牛11頭を供試して強化哺育試験を実施した。給与プログラムとしては、強化哺育用代用乳給与日量を3週齢までに0.8kgから1.2kgまで増量して5週齢まで給与量を維持した後、減量して12週齢で離乳した。人工乳については2~7週齢で0.57kg/日まで漸増後、12週齢の2.5kg/日まで増量した。その結果、哺育期における代用乳平均摂取量は0.80kg/日、人工乳摂取量は0.72kg/日、哺育終了時の体重は122.6kg、哺育期間中の日増体量は0.96kg/日であった。
強化哺育の6~12週齢にかけて代用乳給与量を漸減し、その間に人工乳給与量を増量するプログラムにより、哺育期の人工乳摂取量の浄化が可能と考えられた。
図1 哺育期における飼料給与量及び人工乳・TDN摂取量の推移
A:代用乳給与量、B:人工乳給与量、C:人工乳摂取量、D:TDN摂取量
試験週1:0~1試験週齢、*,**:報告間で有意差あり(それぞれ p<0.05、p<0.01)
既報は、小野ら(2017)の報告を引用
図2 各飼料からのTDN摂取量推移
試験週1:0~1試験週齢
既報は、小野ら(2017)の報告を引用
表1 哺育期の飼料摂取量、試験牛の体重・日増体量及び体格部位の測定値の比較
平均±標準偏差
既報の開始時平均生後日齢:7.3、本報告:8.3
既報の体格測定平均生後日齢:91.3、本報告:99.3