2.飼養管理-分娩管理・新生子管理
ポイント
事故多発時期、分娩準備と分娩予知、分娩の立ち会いで事故防止
難産は母子ともに疲労、その後の繁殖、発育に影響
分娩の準備
予定日、前回分娩時の状況を確認し、分娩房の準備と移動、介助器材、保温器材の準備をはじめます
妊娠期間は母牛、種雄牛、栄養状態にも左右され、現在では285~290日で、1週程度前後します。
分娩房は新生子の疾病予防もあり清掃・消毒して、乾燥敷料を入れ、2週間前までには移動させ馴致させます。
子牛は寒さに弱いので冬季は保温器材も準備します。
分娩時の処置用に介助器材、拭取り用タオル、消毒薬、人工初乳、ビタミン剤などを準備します。

画像は酪農学園大提供
生時体重に関するデータ
新たに公表 種雄牛の 「生時体重ゲノミック育種価」(一社)家畜改良費業団令和4年度JRA事業から
事業団の協力農家の4万頭のデータをもとに、生時体重の基本データや生時体重を左右する遺伝要因などが紹介されています。
生時体重に関わる要因
生時体重には様々な要因が関わっています。
当団協力農家から収集したデータから生時体重に関わる要因の効果を算出しました。
未経産と経産の差:未経産に比べて経産は+0.62kg
在胎日数の生時体重に対する効果:1日あたり+036kg
生まれてくる子牛の雌雄の差:雌に比べ雄は+2.72kg
ATとETで生まれてくる子の差:AIに比べてETは+0.45kg
その他 母牛の体型、母牛コンディション 農場の環境の要因も考えられます
生時体重の基本データ概要
■ データ概要
| 収集期間 |
平成21年1月~令和3年10月 |
| 収集データ |
授精記録、分娩記録および生時体重 |
| データ数 |
当団協力農家の41,539頭 (雄22,414頭、雌19,125頭) |
■ 基本統計

生時体重の平均は34.5kg、在胎期間の平均は288.5日でした
生時体重ゲノミック育種価
■ ゲノミック育種価の算出
データ概要 基本統計 DNA情報(SNPデータ)および血統情報を用い、単形質single step SNP-BLUP法により分析しました。生時体重には在胎期間も大きく関わっています。 在胎期間の効果も含めてゲノミック育種価を算出しました。
■ 生時体重の遺伝率と枝肉形質の遺伝相関
生時体重の遺伝率(遺伝の影響の割合)は0.61と高く、親の遺伝能力の影響をかなり受ける形質です。生時体重は枝肉重量との遺伝相関が0.57と正の強い相関がみられ、大きく生まれる牛は枝肉重量が大きくな る傾向にあります。皮下脂肪厚、歩留基準値、BMS No.との相関は小さく遺伝的な影響はうけません。
■ 生時体重と枝肉重量のゲノミック育種価
雌集団の平均を境目にして生時体重と遺伝相関の高い枝肉重量のゲノミック育種価の大小を区分しました。「小さく産まれて大きく育つ」といった特徴を持つ種雄牛も存在します。
種雄牛のゲノミック育種価
■ 生時体重のゲノミック育種価分布
当団が分析した生時体重のゲノミック育種価を持つ種雄牛1,077頭の分布。
分娩予知、ICT機器活用
予定日の1週間前から兆候を観察(ICT機器も活用)し、分娩の兆候があれば立ち会いの準備をします
■ 分娩時間経過(後産まで)とICT機器のの活用
- 分娩1~2日前
外陰部からかたい粘液、その後次第に柔らかくなる
- 分娩2日前頃から
体温が低下し、分娩前日には著しく低下
- 分娩当日
尾の付け根の周りがくぼみ、尾を上げる動作、分娩房内を歩き回る
陣痛開始:寝起き増加、いきみ-30~60分 → 第一破水(尿膜)-30分 → 足胞出現-10分 → 第2次破水(羊膜)-20~30分 → 分娩-4時間 → 後産排出
ICT機器を利用した分娩検知には、センサーを膣内に挿入し分娩前の体温の低下、破水時排出された際の温度変化検知するもの、分娩前の行動変化(移動距離、姿勢の変更など)をカメラで捉えて検知するものがあり、パソコンやスマートフォンに分娩が近いことを知らせます。
分娩の兆候と分娩検知
■ 分娩前の体温低下の検知
分娩1日前には体温が0.5℃程度低下することが知られており、無線式の体温計を利用して、体温の低下で段取り通報し、体温計の放出による急激な温度低下で駆付け通報するシステムが普及している。
■ 行動の変化の検知
牛の分娩前に特徴的な行動変化(分娩兆候)を最新のサーマルカメラとAI技術により非接触で検出し通知するシステムが市販されており、1頭ごと機器を装着する必要がなく侵襲性がない。
資料はいずれも「画像認識AIによる分娩検知システムについて」北里大鍋西先生提供から抜粋
分娩介助の必要性
■ 子牛の死廃事故の原因
出生時の死亡 ・・・56.0%
腸炎 ・・・10.3%
肺炎 ・・・ 6.3%
心不全 ・・・ 6.3%
母牛の死亡に伴う死・・・ 4.3%
子牛虚弱症候群 ・・・ 3.9%
他
子牛の死廃事故の半分以上は出生時の死亡。
国の聞き取り調査では、過大子のほか胎児失位による難産や未監視下での寒冷感作や原因不明死が大半を占めている。
安産によるメリット

→安産だと酸欠になりにくく、初乳の吸収率も良い
資料は令和元年度和牛アカデミー「哺育期・育成期の管理について」全農飼料畜産中央研究所から
乳牛でも牽引強度の増大と牽引時間の延長で子牛の活力低下、換気障害による呼吸性アシドーシスも招き免疫移行への影響も示唆されることから、助産を行う際は母牛の状態に合わせて介入し、最小限の力で搬出させることを心掛ける必要があるとの報告がある。
産業動物臨床医誌2011 2(1):
14-19帯広畜産大学杉本ら
酪農学園肉牛農場での分娩介助の方法
【考え方】
母牛が子牛を産む際に、最も辛い時に手助けする
- 子牛の肘、頭、肩、腰が出る時に母牛の力みに合わせて牽引する
- 牽引開始は、足胞が完全に出て二次破水し繋ぎが外陰部に完全に出たとき
(ただし、一次破水後1時間以上経過している場合は、足胞が出てこなくても胎子の姿勢と位置を確認し、牽引するかどうか判断する)
- 牽引する場合の要点
- 早すぎる牽引と強引な牽引は難産、産道裂傷、子牛の生存性に悪影響
- 必ず母牛の力みに合わせて引く
- 母牛が力みを止めても胎子を子宮内に戻さず保持する(産道への胎子侵入刺激が子宮頸管のさらなる開帳と子宮収縮を促進する)
- 胎子が産道内に徐々に押し出されるのを確認しながら牽引する
- 頭部を出すときは少なくとも5回程度の力みを誘発する
- 頭部が出たのちは肩まで出し、一旦休み、腰角の手前で再度休み、子牛が胎水を吐き出すのをできるだけ確認し、その後数回で子牛を引き出す
全国肉用牛振興基金協会セミナー
分娩管理と分娩後の受胎性向上 酪農学園大堂地先生から
分娩介助・往診依頼
可能な限り立ち会い、二次破水したら胎位を確認、つなぎが出てきたらいきみに合わせて牽引します。
出血があったり分娩が進まない場合は獣医師に連絡します。
肉用牛の出生時の体重は大きくなってきており、難産では母子ともに疲労、産子のその後の発育にも影響します。
介助(けん引)はつなぎが出てきてから。分娩が正常に進まない場合は胎位を確認整復。膣内に手を入れる際は手袋を着用し外陰部周辺、手指、腕をしっかり消毒します。

岩手県肉用牛飼養管理マニュアル(R4)から
いつもと様子が違うとき、出血がある時(へその緒の切断、胎盤剥離の疑い)はすぐに、逆子など胎位の整復が困難な場合は獣医師に連絡、相談します。
■ 異常分娩の兆候
- 陣痛がはじまって6時間経っても破水しない
- 一次破水後1時間経っても足胞が出ない
- 足胞が出た後1時間(初産牛で2時間)しても生まれない
- 生まれる前に出血した
→ 過大子、逆子、産道狭窄、陣痛微弱、早期胎盤剥離、子宮捻転、低下カルシウム血症、多胎などの可能性
分娩後の処置
子牛は、気道の確保、へその緒の消毒をし、母牛に舐めさせたり、タオルなどでよく拭いて体温低下に注意します。
母牛は、外陰部周辺はや乳房を消毒、ビタミン剤などので栄養補給をし、その後後産の排出を確認し廃棄します。
子牛には分娩後6時間以内には清潔な初乳を給与します。
子牛の気道確保では、鼻、口周りの粘液を拭き取り、呼吸していない場合は台の上で子牛を伏臥位(“伏せ”の状態)にし、頭だけ台からずらして下に向かせるという方法や人工呼吸器キットを利用します。
へその緒は希ヨード剤で消毒。長ければ5cmほどで切除します。
母牛が子牛を舐めるリッキングは強いマッサージ効果があり、排糞、排尿、呼吸、血行を促進し、初乳の吸収率も高まります。
リッキングやタオルなどで拭いて子牛の体を乾かし、体温が低下しないよう注意します。
母牛には栄養補給としてビタミン剤、味噌湯などを給与。分娩後1~6時間では排出される後産を廃棄、24時間たっても後産が排出されないときは獣医師に相談します。
良質、清潔な初乳を哺乳欲を待って感染への抵抗性をつける免疫グロブリンが吸収されやすい分娩後6時間以内に2~4ℓ給与します。
羊水を飲んで哺乳欲のない状態では十分に吸収されません。
初乳が出ない、初乳摂取が十分でない場合は市販の人工初乳や清潔に採取し凍結保存した初乳(感染症防止のため60℃30分加温)利用します。
哺乳欲がない場合はストマックチューブを使うか獣医師に相談しましょう。
酪農学園肉牛農場における娩出後の処置
■ 子牛のケア
- 子牛が生まれたらタオル等で体を拭くとともに、母牛になめさせる。
- 子牛が落ち着いたら、臍の緒に抗生物質(獣医師の指示を受けて)またはイソジンをスプレーする。
- つづいて、生菌剤を約1g、子牛の口の中(頬のところ)に清潔な指か容器で入れる。
- 生時体重を測定する。
【注意】
肉牛は分娩すると子牛を守るために、まれに人に攻撃してくる牛がいるので、十分注意する。
特に、生時体重の測定のために、子牛を母牛から離す際に注意が必要である。
- 子牛が自立して哺乳するまで観察する。
【注意】
牛が落ち着く前に強制的に人口初乳等を与えることは厳禁。
- 初乳が晩出後遅くても4~6時間以内に与えれば問題ない。
- 分娩に翌日も母乳を飲んでいるかどうかなど、子牛の状態を必ず確認する。
全国肉用牛振興基金協会セミナー 分娩管理と分娩後の受胎性向上(酪農学園大堂地先生から)
良質な初乳とは
- 初産牛より経生牛の初乳
経生牛のほうが種々の疾病等を経験しており、免疫豊富。
- 第1回の乳だけが初乳
免疫濃度は時間の経過とともに低下する。
- 分娩前に漏父している牛の初乳は不適当
漏乳するとすでに初乳が排出されてしまっている。
- 暑熱ストレスを排除する
暑熱ストレスにより初乳中免疫物質が低下する報告がある。
- 初乳計や糖度計で免疫濃度を確認した初乳
・比重:1.047以上
・糖度(Brix値):20%以上
令和元年度和牛アカデミー「哺育期・育成期の管理について」全農飼料畜産中央研究所から
生後なるべく早い方が良い?
ストマックチューブを使用して強引に飲ませる?
感染への抵抗性をつける免疫グロブリンの取込み能力は生後6~8時間が最大といわれておりそれまでに無理に飲ませる必要はありません