持続可能な肉用牛生産  はじめに



環境にやさしい、牛にやさしい肉用牛生産

JRA畜産振興事業:持続的肉用牛生産関連情報発信事業


肉用牛生産は、人が食用にできない資源を飼料として利用し、農村の維持、活性化にも貢献している重要な産業です。

肉用牛生産の基本は、牛を大切に飼うこと。そして今、地球の環境にもやさしい肉用牛生産が求められています。

これまで生産者が取り組んできた、牛を健康に飼うこと、育ちやすい牛をつくること、地域の資源を飼料に利用すること、排泄物をきちんと処理をすることはすべて環境負荷の軽減につながっています。

このページでは、これからも日本の食生活を支えていく肉用牛生産での様々な取組みを定期的に紹介していきます。


我が国で畜産・酪農に取り組む意義

お知らせ

持続的肉用牛生産について情報を提供してきたこの専用ページはJRAのご支援による2か年の事業で令和4年から開設していますが、6年度以降も継続してご支援いただけることになりました。

円安などにより資材高が続く中、環境負荷軽減やアニマルウエルフェアなどの取組みは前回アップした講演動画にもあるとおり、生産性の向上、生産コストの低減につながるものであり、また、肉用牛生産への消費者の方々の支持を得ていくためにも大切な取り組みだと考えます。

地球を守る、地域を守る、みんなを守る。引き続き内容の充実に努めて参りますので関係の方々にもお声がけいただき、肉用牛生産に関わられる皆さんで広く情報共有し、消費者の方々にも情報発信していければと考えています。

当ホームページへのご質問、ご意見は、まで。


畜産生産による環境負荷


飼料、家畜、堆肥、飼料生産という資源循環がうまく回らないと水質汚濁、悪臭(問題)、地球温暖化等の環境負荷を増大させることになります。
まずは、適切な飼養管理による生産性向上と堆肥の適切な処理、そして飼料自給率のアップが環境負荷軽減の第一歩です。



適切な循環で負荷を軽減!!

NEW

肉用牛生産での環境負荷のしくみやそれを軽減するための方法を解説頂いています。


「肉用牛生産における環境負荷とその軽減」

元東北大学農学研究科教授寺田文典氏
(2022年9月20日オンライン情報交換会から)


PDFを見る   動画を見る
 

畜産分野の温室効果ガスの排出量


世界の温室効果ガス(GHG)排出量は590億トン(二酸化炭素(CO2)換算)で、このうち、農業・林業・その他土地利での排出は排出全体の22%(2019年)。日本のGHG総排出量は約11.7億t/年でこのうち、農林水産分野由来は約4%、畜産由来に限れば約1%(農林水産業由来約28%)です。 畜産由来のGHGの主なものは、牛などの草食家畜が牧草を微生物の働きで発酵させ消化する過程で発生するCH4(メタン)と、家畜排せつ物を管理する過程 で発生するメタンとN2O(一酸化二窒素)となっています。


用語解説

本ウェブサイトで使用している用語を解説します。
不明な用語がございましたら、までお尋ねください。


環境負荷
環境に与える負、マイナスの影響。人的なものとして廃棄物、公害、開発などがあります。
SDGs(Sustainable Development Goals)持続可能な開発目標
国連サミットで2015年採択された持続可能でよりよい世界を目指す国際目標。
2030年を年限とする17の目標とその下に169のターゲット、232の指標が定められています。
この目標の中に、飢餓をゼロにする(持続可能な農業の促進)、つくる責任つかう責任(持続可能な生産と消費のパターンの確保)、気候変動に具体的な対策を、といった農業生産に直接関連する目標が掲げられています。
食料システム
「食」にかかわる、調達から生産、加工、流通、消費までの関係者の つながりからなる大きな仕組みをいいます。
温室効果ガス GreenHouse Gas(GHG)
地表から放射された赤外線の一部を吸収することにより、温室効果をもたらす気体。
人の活動によって増加した主なものにCO2(二酸化炭素),CH4(メタン)、N2O(一酸化二窒素)、フロンガスがあり、温室効果はメタンがCO2の25倍、 N2Oは298倍とされています。
牛のげっぷ
牛などの草食家畜が牧草を微生物の働きで発酵させ消化する際に出るものでメタンが含まれています。
メタンの温室効果はCO2の25倍で世界的に地球温暖化の一因とされていますが、日本では、排泄物から発生するメタンや、N2Oを計算に入れても畜産業由来の温室効果ガスはCO2に換算して総排出量の約1%となっています。
カーボンニュートラル
CO2はじめとする温室効果ガスの排出量 から、植林、森林管理などによる吸収量を差し引いて、合計を実質的にゼロにすること。政府は2050年までに実現することを宣言しています。
農林水産業のCO2ゼロエミッション
省エネ型の施設園芸設備の導入、農林業機械・漁船の電化・水素化などにより化石燃料起源のCO2の排出(エミッション)をゼロにすることをいいます。
カーボンフットプリント(Carbon Footprint of Products:CFP)
商品・サービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでの間に排出される温室効果ガスをCO2に換算し、その商品・サービスに分かりやすく表示する仕組みで、見える化により事業者や消費者の意識づけが容易になります。
肉用牛生産でみると、飼料の生産・輸送、家畜の消化管活動、排泄物やその処理により発生する温室効果ガスの排出量が計算されることになります。
J-クレジット制度
省エネ機器の導入や再生可能エネルギーの利用、森林管理などによる温室効果ガスの削減量や吸収量をクレジット(排出権)として国が認証する制度です。クレジットの売買により売り手は排出削減などに要した費用をまかなえ、買い手は温室効果ガスの排出の埋め合わせ(カーボンオフセット)に利用できるなど様々なメリットがいわれています。
この制度での排出削減、吸収の方法として様々な方法が登録されており、畜産分野に限定したものとして、家畜排せつ物の管理方法の変更、アミノ酸バランス改善飼料の給餌も登録され適用条件が決められています。
化学農薬
農作物など害虫や病気を退治したり雑草を除いたりする薬剤のうち、化学的に合成されたものをいいます。
国は、これに依存しない総合的な病害虫の管理体系の確立や新規農薬等の開発による使用量の低減を目指すとしています。
化学肥料
空気中の窒素や鉱物など無機物を原料にし化学的に合成された肥料です。
一方、堆肥など動植物を原料にしたものは有機肥料といいます。国は、輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量の低減を目指すとしています。
肉用牛の生産
国内では、4万戸(令和4年2月現在)の生産農家で行われ、このうち、子牛を生ませる繁殖雌牛は3万6千戸で64万頭が飼われていて、9千5百戸が160万頭を肉用に出荷するために肥育をしています。国産牛肉の生産量は令和3年度で33万6千トンで国内の牛肉消費量の37%、一部は輸出も行われています。
詳しくは当ホームページの統計資料肉用牛の豆知識をご覧ください。
家畜(牛)の改良
家畜の生産性を高めるため、交配と選抜を繰り返して、より能力の高い家畜を増殖させていこうとする取組みをいいます。肉用牛生産においても、畜産の振興や畜産経営の改善だけでなく、消費者により良質な畜産物(牛肉)を提供するため、様々な改良により家畜の能力を高めてきており、現在では血統登録や人工授精に加え、受精卵移植、遺伝子解析の技術も導入し取り組まれています。
家畜(牛)の飼料
草食動物である牛には、牧草など繊維分が多い粗飼料ととうもろこしなど養分の多い濃厚飼料などが利用されています。その割合は子牛を生産する繁殖牛の場合は養分量で半分ずつ、肥育牛の場合は9割方が濃厚飼料となっています。
粗飼料は、放牧や乾草、発酵させたサイレージの形で利用され、作付面積は日本の耕地面積の1/5にあたる90万haほど、自給率は8割弱で、乾草や稲わらの一部は輸入もされています。
濃厚飼料は、とうもろこしや大豆油かすなどで、ミネラルやビタミン類なども混ぜ合わせた配合飼料の形で給与されることが多く、自給率は1割強、飼料米の利用や子実用トウモロコシの生産など自給率の向上に向けた取組みも行われています。
家畜(牛)の飼養管理
飼養管理とは、飼う場所、施設の環境を整え、成長、目的に合わせた飼料の給与や繁殖(交配や分娩)の管理を行うことを言います。
肉用牛の飼養規模は年々拡大し現在では1,000頭を超える経営も珍しくなく、ICT(情報通信技術)を活用した自動給餌機や分娩監視装置なども導入されてきています。
家畜(牛)の衛生、防疫
家畜も人と同じように様々な病気にかかることがあります。家畜の健康を守り、安定的に畜産物を生産するため、人と同じくワクチン接種による予防や畜舎の洗浄・消毒などの衛生管理が必要です。近年、養鶏、養豚分野では高病原性鳥インフルエンザや豚熱の発生もみられています。国際的な交流も盛んになる中で水際での侵入防止や国内での防疫体制の整備もますます重要になっており、肉用牛生産者も国の定める飼養衛生管理基準に沿った管理に取り組んでいます。
家畜(牛)の堆肥の生産・流通
肉用牛の排泄物(糞尿)のほとんどは稲わらやおがくずなどどともに堆肥とされ、有機質肥料として利用されています。これにより資源が、飼料、牛、堆肥と循環することになり、適切な管理で温室効果ガスの排出も抑制されることになります。
畜産が盛んになる地域ができはじめ、飼養規模も大型化するにつれ、ペレット化などにより広域で利用する仕組みづくりが必要になっています。
国産飼料生産、調達
飼料の自給率は25%、うち牧草などの粗飼料の自給率は8割弱、とうもろこしなどの濃厚飼料の自給率は1割強となっています。飼料の生産面積は、飼料用米も加えると100万haとなっており、国産飼料の増産は国際価格動向に左右されない足腰の強い畜産経営の実現のみならず、国土・荒廃農地の有効利用や資源循環の観点からも重要です。
このため、草地基盤の拡充・整備や草種・品種の改良、水田を利用した飼料作物の生産、草地等の生産性向上、飼料生産組織の育成・強化などの取組が進められています。
有機畜産
自然循環機能の維持や環境負荷を軽減するため、薬剤に頼らず、有機栽培された飼料を与え、家畜の行動要求に十分留意した飼育方法を行う畜産を指しており、有機畜産物JASでは認証のための細かな基準を設けています。
有機畜産物JASの認証事業者はまだ少なく、消費者の理解醸成、加工、流通サイドとのマッチングや有機飼料の生産や飼養管理を支える技術の開発が求められています。
農場HACCP
危害を予測し、それを防止するための重要管理点を定め、継続的に監視、記録するHACCP(危害要因分析・必須管理点)の考えを取り入れた飼養衛生管理方式で、農林水産省が認証基準を定め、民間団体が認証を行っています。
薬剤耐性菌対策
人や動物の細菌でおきる病気の治療などに抗菌薬を使っていると、その抗菌薬が効かない細菌が出てくることがあります。この薬剤耐性菌による人や動物の被害を防ぐため、国がアクションプランを作って、耐性菌の出現状況の監視や医療上重要な抗菌剤の動物への責任ある慎重使用の取組を進めています。
アニマルウェルフェア
快適性に配慮した家畜の飼養管理のことで、 国際機関の勧告では、①飢え、渇き及び栄養不良からの自由、②恐怖及び苦悩からの自由、③物理的、熱の不快さからの自由、④苦痛、傷害及び疾病からの自由、⑤通常の行動様式を発現する自由、という5つの指針を示しています。
国内では農林水産省が、基本的な考えを示し、民間団体でそのガイドラインを策定していましたが、令和5年7月26日に、国が新たな「畜種ごとの飼養管理等に関する技術的な指針」を示しています。
GAP(農業生産工程管理)
生産活動の持続性を確保するため、食品安全、家畜衛生、環境の保全、労働の安全、アニマルウェルフェアなどを確保するため、点検項目を定め、これらの実施、記録、点検、評価を繰り返し、生産工程の管理や改善を行っていく取組です。畜産では民間団体が基準書を作り実施農場の認定をしています。