生産地の取組み

環境負荷軽減優良事例調査
-北海道における家畜排せつ物管理方法の変更による環境負荷軽減の取組みとJ-クレジットの活用

(一財)畜産環境整備機構の羽賀顧問に、家畜排せつ物の管理方法の変更として強制発酵を取り入れ、J-クレジットのプロジェクトにも参加している大規模農場の調査を行っていただき報告書を取りまとめていただきました。


ポイント
  • 調査農場は本場に肉牛、支場に乳牛を飼養する大規模農場。
  • 増頭の計画もあり水分の多い乳牛の排泄物を堆肥化するため急速発酵乾燥資源化装置を導入。
  • 強制発酵への変更で温室効果ガスの排出量削減の可能性が示され、J-クレジットの方法論、家畜排せつ物の管理方法の変更として、プロジェクトへの参加を調整中。


1.家畜飼養状況

佐呂間町内の本場(写真1、2、3)と3つの支場で、肉牛13,000頭、乳牛1,000頭の計14,000頭を飼養しており、自農場で商品登録している黒毛和種のブランド牛(写真4)と交雑種のブランドを生産している。


写真1 調査農場本場の航空写真(出典:Google)


写真2 調査農場本場(出典:農場ホームページ)


写真3 調査農場本場の牛舎(出典:農場ホームページ)


黒毛和種のブランド牛は、生後2カ月から出荷まで一貫生産を行い、肉質は脂肪がキメ細かく繊細な「霜降り」が入る高級牛肉である(写真4)。交雑種のブランド牛は、黒毛和種の味の良さとホルスタイン(乳牛)の成長の早さの両者の利点を受け継いだ交雑種である。黒毛和種よりも赤身の多い肉質だが、脂のしつこさもなく、価格も比較的リーズナブルであることから、近年は消費者の高齢化や健康志向もあり人気が高まっている。

2012年5月に国内第1号の農場HACCP認証を取得し、畜産物の安全性や品質を確保するために、HACCPの考え方に基づく衛生管理に取り組んでいる。2018年11月にはJGAP家畜・畜産物認証を取得し、食の安全や環境保全に取り組んだ生産工程に取組み、アニマルウェルフェアなどに配慮している。


写真4 農場生産の黒毛和種ブランド牛(出典:農場ホームページ)



2.家畜排泄物の処理方法

排泄物はすべて堆肥化されている。本場では、育成牛約6,000頭、肥育牛約4,000頭の排泄物を、スクリュー式撹拌機の付いた4か所の堆肥化施設と、ホイルローダーで切り返す方式の5か所の堆積式堆肥舎で堆肥化している。また、増頭計画があり堆肥化施設の増設ないしは処理能力を上げる必要がある。さらに、本場の堆肥化施設では分場の乳牛の排泄物を堆肥化する必要がある。分場には乳牛約1,000頭、育成牛約500頭が飼養されているが、乳牛の排泄物(ふん尿混合物)は水分が90%と高く、堆肥化原料の水分を堆肥化に適した70%程度の水分まで低下させる必要がある。


3.堆肥化方法の変更

堆肥化の処理能力を上げ、堆肥化原料の水分を低減する必要性に対応するため、本場の堆肥化方法を変更することになった。

水分を低下させるには、以下の3種類の方法がある。

①オガクズのような水分の少ない副資材を混合する。

②固液分離機で水分を絞り出し固形分の水分を低減する。

③乾燥させて水分を低減する。

オガクズなどの副資材は不足し価格が高騰しており副資材を添加・混合すると処理量が増加する課題があり、固液分離には絞り出した分離液の処理に別途余計な手間と経費がかかる課題がある。したがって、本調査事例では③の堆肥化原料を乾燥する方法を選択した。

2022年に畜産クラスター補助事業:令和2年度補正予算 畜産環境対策総合支援事業のうち畜産・土づくり堆肥生産流通支援事業、法人税特別税制措置を活用し、急速発酵乾燥資源化装置(ERS: Environmental Recycling System)を導入した(写真5)。


写真5 調査農場の急速発酵乾燥資源化システム(ERS)


水分が約90%と高い乳牛のふん尿混合物に水分調整のために肉牛の堆肥化原料を一部混合し、ERSに投入し60℃程度に加熱しながら吸引通気して発酵乾燥する(図1)。加熱用燃料には重油と燃料代節約のためにRPF(注1)(写真6)を用い、熱湯によって発酵乾燥槽(写真7)を加熱している。蒸発した水分は水蒸気となって特徴的な形状をした排気口から排気される(写真5、図1)。約5時間後に水分が約60%に低減された発酵乾燥物が得られる(写真8)。発酵乾燥物は再生敷料と堆肥に利用される。

以上、従来から行われている堆積式の堆肥化を、吸引通気式の発酵乾燥に変更し、高水分の堆肥化原料に対応し、堆肥化の処理能力を上げることができた。


図1 急速発酵乾燥資源化システム(ERS)のフロー

写真6 RPF


写真7 急速発酵乾燥槽

写真8 ERSの発酵乾燥物


4.堆肥化方法の変更に伴うGHG排出係数の変化

家畜排泄物の堆肥化に伴って発生する主要なGHG(温室効果ガス)はメタン(CH4)と一酸化二窒素(N2O)であり、既往の研究成果をレビューすると、堆肥化方式の種類によってGHGの排出と制御に違いがあった。「日本国温室効果ガスインベントリ報告書 2026年」から、乳牛と肉牛の堆肥化の種類によるGHG排出係数(注5)を表1に示す。


表1 堆肥化方式の種類とGHG排出係数
(日本国温室効果ガスインベントリ報告書から作表)


インベントリ報告書では、堆積方式の堆肥化法を堆積発酵と呼んでいる。ERSによる発酵乾燥法は密閉式強制発酵方式に類似しているので、表1では密閉式強制発酵の数値を示した。畜種に関わらず堆積発酵の方が密閉式強制発酵よりも、GHG排出係数が大きいことが明らかである。例えば、乳牛のふん尿を堆積発酵した場合には、ふん尿に含まれる有機物の3.8%がメタンで排出されるが、密閉式強制発酵では0.08%と約50分の1の排出係数になる。一酸化二窒素についても、堆積発酵ではふん尿に含まれる窒素の2.4%、密閉式強制発酵では0.25%と約10分の1の排出係数になっている。

以上、表1の数値からみると、調査農場の事例のように堆肥化方法を堆積発酵から強制発酵に変更することによって、GHGの排出量削減の可能性が示された。


5.家畜排泄物処理方法の変更によるJ-クレジットの申請

(1)J-クレジット制度について

農林水産省が2022年に公表した「J-クレジットのすすめ~排出削減・吸収した温室効果ガスを活用しよう~」によると、J-クレジット制度とは、省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるGHGの排出削減や、適切な森林管理によるCO2の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度となっている。したがって、調査農場の事例における堆肥化方式の変更によるGHG排出削減は、クレジットの申請に繋がるものと考える。

図2に示すように、省エネルギー設備の導入などによってクレジットを取得したクレジット創出者は、クレジットを購入者に売買することによって、売却益を得ることができる。一方、クレジット購入者は購入したクレジットを、温対法の「調整後温室効果ガス排出量」(注2)の報告や、「CDP質問書」(注3)および「RE100」(注4)の目標達成度など環境関係の報告等に活用できる。


図2 J - クレジット制度の仕組み(「J - クレジットのすすめ」から作図)


クレジット創出者のメリットは、売却益のほかにも、省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの活用によるランニングコストの低減や、温暖化対策のPR効果、クレジット制度に関わる企業や自治体との関係強化などがある。


(2)J-クレジット制度への登録、認証までのフロー

クレジットの認証を受けるために、まずプロジェクトを登録する必要がある。トップファームのプロジェクトでは、変更前の堆積式発酵におけるGHG排出量と変更後の発酵乾燥方式の排出低減量をモニタリングできるように計画書を作成した。プロジェクト計画書の妥当性について認証委員会の確認を受け登録に至る。

登録したプロジェクトを実施し、低減したGHG排出量のモニタリング結果を認証委員会に報告して審査を受け、クレジットが認証・発行される。

調査農場の事例において、プロジェクト登録から、実施、モニタリングデータの採取、とりまとめ、報告書の作成などJ-クレジットに関する一連のコンサルティング作業はグリーンカーボン(株)が担っている(図3)。北海道の5つの酪農家と契約を結んでプロジェクトを遂行し合計6,750t-CO2のクレジットを創出予定だが、調査農場の堆肥化方式の変更の事例では、2,692t-CO2のクレジットを創出している。


図3 プロジェクト体制(グリーンカーボンの資料から作成)


グリーンカーボン(株)は本事例のほかにも、国内外で水田(国内:中干し延長、海外:AWD(間断かんがい))、森林保全、バイオ炭、牛のゲップ・排泄物管理、カーボンファーミング、マングローブ植林などのプロジェクトを立ち上げ、自然由来のカーボンクレジットを創出するなどの実績がある。また、創出したクレジットの販売や、既存クレジットの購入仲介も行っている。


表2 農業分野のJ-クレジットの実績(農林水産省のホームページから作表)

注:太字はプログラム型プロジェクト、赤字は2026年3月までにクレジットが認証されているプロジェクト


参考のために、農業分野のJ-クレジットの実績を表2に示す。J-クレジットのプロジェクト登録件数のうち、農業者が取り組むものは2026年3月現在58件あり、これらプロジェクトによって農業分類のみでもこれまでに約62万t-(CO2換算)のクレジットが認証されている。




(注1)RPF

RPFとはRefuse derived Paper and Plastics densified Fuel の略称であり、主に産業系廃棄物のうち、マテリアルリサイクルが困難な古紙及び廃プラスチック類を主原料とし固形化した燃料である。エネルギー的に高品位で低コストであることから、石炭やコークス等、化石燃料の代替として、大手製紙会社、鉄鋼会社、石灰会社など多くの産業で利用されている。


(注2)温対法の調整後温室効果ガス排出量

事業活動に伴う温室効果ガス排出量を算定するに際し、温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)におけるCO2排出量の届出様式で、実際の排出量にCO2排出削減対策を反映させて算出した排出量である。


(注3)CDP質問書

CDP(Carbon Disclosure Project)は英国に本拠地を置く国際環境NGOで、企業などの環境情報開示プログラムを複数運営している。CDPが気候変動等に関わる事業リスクについて、企業がどのように対応しているか質問様式で調査し、評価したうえで公表する。


(注4)RE100

RE100とはRenewable Energy 100%の略称で、企業が自社で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーでまかなうことであり、その達成度を報告する。


(注5)GHG排出係数

各種環境条件でGHG排出量を算定するときの原単位であり、既往の研究成果をもとに設定されている。例えば、肉牛ふん尿を原材料とした堆積式で堆肥化する条件において、メタン(CH4)の排出係数は、原材料に含まれる有機物量(kg)当たりのメタン(kg)の排出量割合を%表示し、0.13%(%:kg-CH4/kg-有機物)、一酸化二窒素の排出係数は原材料に含まれる窒素(N)当たり1.6%(%:kg-N2O/kg-N)と設定されている。


【参考資料(50音順)】

1)温室効果ガスインベントリオフィス(GIO)(2026)第5章 農業分野,「日本国温室効果ガスインベントリ報告書 2026年」.国立環境研究所 地球環境研究センター,p.5-1~5-72.
https://www.env.go.jp/content/000393251.pdf(最終参照日:2026年6月11日)


2)グリーンカーボン(Green Carbon株式会社)・ホームページ
https://green-carbon.co.jp/(最終参照日:2026年6月11日)


3)グリーンカーボン(2026)Green Carbon 株式会社 事業内容.Ver.2026.2


4)畜産環境整備機構(2018)2.2.2堆肥化処理,2.2家畜ふん尿処理段階におけるGHGの排出を制御,2.GHGの排出と制御,「畜産分野における地球温暖化緩和技術レビュー報告書」.p.29~38.


5)畜産環境整備機構(2022)1.堆肥化方式の分類・概要,第2章 堆肥施設・機械の基本,「堆肥化施設設計マニュアル」.p.38~40.
https://www.chikusan-kankyo.jp/newhomepage/manual/taihimanual.pdf(最終参照日:2026年6月11日)


6)農林水産省(2022)「J-クレジットのすすめ~排出削減・吸収した温室効果ガスを活用しよう~」.40pp.
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/climate/jcredit/jsusume/attach/pdf/top-8.pdf(最終参照日:2026年6月11日)


7)農林水産省 農林水産分野におけるカーボン・クレジットの拡大に向けて.18pp.
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/climate/jcredit/cckakudai.pdf (最終参照日:2026年6月11日)