環境負荷軽減優良事例調査
-大分県下における地域資源を活用したブランド牛生産
京都大学名誉教授の廣岡先生、元(独)家畜改良センター宮崎牧場長の池内氏に地域資源を活用したブランド牛生産を行う大分県下の農場に調査に出かけていただき、池内氏に報告書を取りまとめていただくとともに、廣岡先生には関連のコラムを執筆いただきました。
- コントラクター機能も持ち、稲わら収集、WCS生産等を行うとともに堆肥を関連農地に還元し、地域資源の循環、耕畜連携を実現。
- 飼養環境の整備、ICT活用やビール粕給与、ビタミンコントロール等で事故率を低減するとともに良質な牛肉を生産。
- ビール粕等の利用を条件としたブランド牛の販路拡大に積極的に貢献。
1.経営の概要
大分県宇佐市にある農場。農場主は、全国展開していた大規模農場の預託を請け負っていた父親の農場を引き継ぎ、その後はJAから肥育牛の預託の請負に加え、自家用の肥育牛と繁殖牛を飼養するようになり、一貫経営であるとともに肥育素牛も家畜市場に出荷している。
農場従事者は調査日時点で自身に加え正社員5名、パート2名の計8名で農場での飼養管理に加え、コントラクター事業も展開しており、今後さらに2名を採用予定。
飼養頭数は繁殖牛を約115頭、哺育・育成牛が約65頭、肥育牛は約200頭でこれに加えJAからの預託牛約370頭を飼育している。
JAからの預託牛は飼料代を除いた管理費を1頭1日あたりの単価で請け負っており、飼料は自農場の肥育用の飼料を用いている。
コントラクター事業では、約200haの作業を請負い、稲わら、乾草、WCSを収穫し自農場の繁殖、肥育の飼料としているほか一部は販売している。

整然と並べられたロール
2.肉用牛の飼養管理について
(1)繁殖牛と子牛・育成牛
繁殖牛は平均4歳、6歳で、その繁殖成績は年間分娩頭数95頭(うち受精卵産子3頭)、平均分娩間隔は400日となっている。
繁殖牛舎、分娩・哺育牛舎、哺育・育成牛舎で管理されており、妊娠牛は分娩1か月前には繁殖牛舎から分娩房に移動させ分娩1週間前には牛温恵(分娩管理システム)を装着、牧場近くの自宅から監視カメラで分娩の様子を確認。子牛の足が出てくるくらいで現場に向かい、胎位を確認し必要に応じ介助しており、初乳摂取の有無もカメラで確認している。分娩後1週間から10日くらいで親子分離するが分娩事故は過去1年に過大子による1頭だけと大変少なくなっている。
人工授精は、分娩後40日になったら始めるが、獣医師が月に2~3回往診して、オブシンク処置を行って発情を同期化している。と場で卵巣から採卵して体外受精により受精卵を作成してもらっているが、今のところ受胎率がよくなく受精卵移植の数は少なくなっている。
種雄牛については優秀なものが多く特にこだわりはないが、母方の能力が大切と考え、ゲノム情報で繁殖牛の遺伝的チェックを行っている。
繁殖牛への飼料給与は、維持期が市販配合1kg、ふすま1kg、乾草(イタリアン)1kg、稲わら4kg、分娩前2か月には市販配合を2kgに増量している。

繁殖牛舎の繁殖牛(維持期)

分娩房と監視カメラ、スマホ画面

繁殖管理用掲示板
哺育・育成牛への代用乳給与は、当初の3ℓから3か月齢で6ℓまで増量。人工乳、粗飼料の給与も早い段階から始め、3か月齢で飽食。4か月齢で離乳し、人工乳4kgを育成用配合に切り替え、以後、粗飼料(チモシー、オーツヘイ)を飽食としながら配合は6kgまで増量、この間生菌剤なども投与している。
哺育・育成では、肩幅が広く体高もあり、もも張りのよい牛を目指しており、10頭ほど出荷した子牛は9か月齢で去勢300kg、雌280kg成績となっている。

子牛用ハッチ

育成牛
(2)肥育牛
肥育牛舎で1房に4頭収容して肥育。配合飼料は、肥育前期(14か月齢ま)4~8kg、後期は8~12kgで、栄養価のバランスが大切であると考え、自家配合にビール粕を機械で混ぜて給与しており、ビール粕は前期多め、後期は少なめに利用しているとのこと。
粗飼料は前期にオーツヘイ4kgに稲わら1kg、後期は稲わらを飽食としている。
肉質については脂肪交雑が入り、脂肪に甘みがあってサラッと食べられるものを目指しており、枝肉の平均BMSは10.5~11。昨年は90頭出荷し、去勢は29か月齢で枝肉重量520kg、雌は同じく470kgでA5,A4比率は100%となっている。

肥育牛舎、奥は飼料の撹拌機

肥育後期の肥育牛
JAの預託牛も同じ飼い方をしているが、JAには子牛を買い支える役目もあり、素牛の違いからか1頭30万円ほどの価格差が出るとのこと。
肥育は飼育期間である28~29か月ずっと食べている牛が良くなると考えており、ビタミンAよりビタミンEに気を使っている。地元の家畜保健衛生所とビタミンコントロールについて毎月全頭採血をしてデータを集めているところで、17か月齢でビタミン合剤を与えるが20か月齢になるとビタミンが切れるので、23~24ケ月齢からはしっかりとビタミンを投与しないとロース芯が太くならないとのこと。また、肥育牛は出荷前に参考として超音波診断にかけて肉の状態を確認している。
なお、経産肥育も行っており、6~7か月で肥育し出荷しているが、枝肉に関してはA5が出ることもあり、現在は価格も高いとのこと。
(3)飼養環境、衛生管理について
畜舎も明るく開放的で水槽、飼槽をはじめ清掃も行き届いており、敷料もおがくずを近隣から購入し2,3週間で交換。畜舎入口には踏み込み消毒槽を設置し鳥よけネットも張っている。
暑熱対策として、細霧装置をも導入し、湿度の高い時以外は利用している、導入後夏の枝肉重量は10~20kg増え、繁殖牛の成績が上がっているとのこと。また、防寒対策としてはカウハッチに収容しカウジャケットやヒーターを使用している。

清掃された水槽、飼槽
ワクチンは、母牛への下痢症混合ワクチンや子牛への呼吸器病混合ワクチン、抗コクシウム剤、駆虫剤も利用。
体温測定を毎日行い早期発見、早期治療に努めているとのことであり、前述の分娩事故をはじめ死亡廃用事故も年間数件にとどまり、子牛の下痢などの発生も少ないとのこと。
【事故率や繁殖性成績と温室効果ガス排出との関係】
一般に繁殖成績の指標としては受胎率が挙げられるが肉牛に関してはその測定が難しいことから、わが国の黒毛和種の繁殖成績の指標には初産分娩月齢と分娩間隔が用いられている。また、温室効果ガス(GHG)は、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、その他フロン類があり、主に畜産分野で対象となるものはメタンと一酸化二窒素である。そこで本コラムでは、事故率や繁殖成績とGHGの削減との関係を述べることにする。まず、分析対象とするGHGの指標として何を用いるかについて最初に明確に定義しておく必要がる。一般に畜産分野で温室効果ガスの問題を議論する場合、GHGを表す指標としてウシから排出されるGHG排出量(CO2換算でg/日)、生産物当たりのGHG排出量(CO2換算でg/生産物kg)および摂取量当たりのGHG排出量(CO2換算でg/摂取乾物kg)の3種の指標が用いられることが多い、最初のGHG排出量は、最も分かりやすく、われわれが最も削減したいと考える指標であるが、この指標を用いた場合、事故率の低下や繁殖成績の向上は生まれ育つ子牛の頭数が増加するため、結果としてGHG排出量を増加させ、環境負荷の増加がもたらされることになる。しかし、実際には、事故率の低下や繁殖成績の向上は、生産性の向上に貢献し、経済性も向上するので畜産の経営には望ましい事である。それゆえ、生産性の向上と環境負荷の低減の両面を考える必要があるので、家畜育種学などでは、第2の生産物当たりのGHG排出量が指標とされて用いられる場合が多い。この指標を用いる場合には、多くの場合で事故率の低下や繁殖成績の向上は環境負荷の低減に貢献すると判断できるケースが多い。なお、第3の摂取量当たりのGHG排出量は、給与飼料の環境負荷を評価するなど家畜栄養・飼養学の分野から検討する場合に良く用いられる指標である。
現在の世界的な動向としては、肉牛でも乳牛でも、繁殖成績が良く、健康で、長命性の優れた個体が選抜対象になることが推奨されており、生産性の向上、環境負荷の低減、アニマルウエルフェアに対する配慮などの社会受容性の向上の3つを同時に考慮する持続可能な家畜生産が期待されている。
3.地域資源の活用と堆肥利用
調査農場は、ブランド牛の条件であるビール粕を県内や隣県から取り寄せ利用するだけでなく、コントラクター事業も展開し、地域内でのWCS生産や稲わら収集、堆肥の還元を行うなど地域資源の活用を図っている。
コントラクターとして、市内を中心に多いときで約200農家の150haほどの田を請け負い、コントラクター代として一反当たり一定額を作業料として受け取っている。
稲わらも市内を中心に約200ha分堆肥との交換で収集している。
堆肥は堆肥舎に積み上げ、副資材は加えず、2~4週間間隔で切り返す。
水分を目視で監視し、6か月程度で堆肥として利用しており、9割は稲わらと交換し、残り1割は近隣農家に販売しているが不足気味とのこと。

農場向かいの堆肥舎
【地域レベルの耕畜連携と環境負荷】
わが国の和牛は、古くより稲作と結びついて稲作から生じる稲わらや野草を飼料とし、役用牛として耕作や運搬などの役用に利用され、またふん尿は農地に還元されていた。しかしながら1950年代からの高度経済成長と農村の機械化によって、和牛は役用牛としての役割を終えることとなったが、当時の生産者の努力と多くの関係者の尽力によって役用牛から肉用牛への大転換を遂げることに成功した。その後、日本の経済発展とともに和牛農家の規模拡大と専業化が進み、その結果、農家当たりの飼養頭数の増加と飼育農家戸数の減少が同時に起こって現在に至っている。このような状況の中で専業化した和牛農家は大量の飼料を外部から購入し、またふん尿を還元すべき農地を失い、その結果、ふん尿は堆肥として外部に搬出せざるをえなくなり、そのことが深刻な環境問題を生じさせることとなった。21世紀に入り、このような問題を解決する方策として、地域内での耕畜連携が模索されるようになって、本稿の農場のように畜産農家がコントラクターとなって耕種農家の農地で飼料用作物(ここでは飼料イネの作付けと稲発酵粗飼料の生産)を生産し、それらを飼料として利用する生産形態が各地で見られるようになってきた。
このような地域内での耕畜連携のメリットとしては、第1に地域内で飼料が獲得でき、このような地場飼料の利用は、船舶やトラックによる輸送のための化石燃料の使用とそれによる二酸化炭素の排出が不可避な海外産の飼料と比べて、環境負荷を低減できるメリットがある。第2に家畜由来のふん尿からの堆肥は窒素やリン、カリウムなどの栄養素に富み、畜産にとっては廃棄物でも作物生産にとっては重要な栄養源となっている。さらに堆肥の利用は化学肥料の利用を削減でき、土壌の物理性、化学性(保肥力の向上)および微生物の生物活性の向上によって土壌の改良が可能となる。また、堆肥を土壌に還元することは炭素貯留に役立っていると考えることもできる。第3に畜産農家がコントラクターとして関わることによって耕種農家と畜産農家の関係性が構築され、そのこと自体が地域貢献となっているといえる。
4.ブランド牛「おおいた和牛」と販売促進
大分県下では古くから「豊後牛」の造成、改良が進められ、2013年にはそのブランドを「おおいた豊後牛」に統一したが、豊後という地名は大分県全域を表さないこともあり、2018年に県が中心となって「おおいた和牛」のブランドを構築した。「おおいた和牛」は「おおいた豊後牛」のうち肉質4等級以上で、飼料米やビール粕などを給与した生産者の顔がみえる牛肉として販売しており、県内肥育農家67戸のうち60戸が出荷している。
農場主も、「おおいた和牛」のシールと自農場のシールを合わせて販売促進に利用しており、生産者の代表として、全国のイベント等に積極的にも参加している。また地元の銀行子会社が「おおいた和牛」を海外に販売しているが、調査農場もこの会社を通じて台湾にも定期的に出荷・輸出しており、先方の購買者などの見学の受け入れも行っている。
農場主は自称営業マンであり、自農場の牛肉を提供する店に足繁く出向き懇意するなどの営業活動を行っている。最後に、「牛を高く買ってもらえると、よい子牛が買えることにつながり、経営にとって好循環になる。」との言葉が印象に残った。

