生産地の取組み

アニマルウェルフェア優良事例調査
-地域とも調和した牛にもやさしい肉用牛生産

宮城大学深澤先生と全国肉牛事業協同組合北池専務に東北2県に農場を展開し、繁殖・肥育、加工、流通、販売を行うグループ会社の農場のうち、宮城県下の和牛繁殖育成農場と和牛・F1の肥育農場を訪問し、アニマルウェルフェアに配慮した飼養管理の状況を調査していただきました。


ポイント
  • 施設は1頭当たりの十分な面積が確保され、採光、換気、暑熱・防寒対策も良好。
  • 繁殖、発育ステージに合わせた飼料給与、管理により1年1産を実現し肥育成績も良好。
  • 若齢での除角、去勢の実施、育成、肥育段階での群の固定などストレスを低減する取組み。
  • 緊急時の対応を含め飼養管理に関する情報を記録、共有するシステムを構築。


東北2県で肉用牛生産を展開するグループの農場の調査報告


宮城大学食産業学群 教授 深澤 充

1.各農場の概要と繁殖牛、哺育牛等の管理


繁殖育成農場では、繁殖雌牛540頭、哺育・育成牛320頭を飼養している。繁殖牛舎6棟、哺育・育成牛舎9棟のほか分娩牛舎があり、繁殖牛房では1頭当たり8~10㎡、哺育房5.8㎡,育成房1頭当たり6.5㎡と十分な面積が確保されている。敷料にはおがくずを用い、適宜交換している。各牛舎において、十分な広さの牛房が確保されていることに加え、採光や換気、暑熱・寒冷対策も良好であり、適切な飼養環境が整えられている。

繁殖牛は平均3.9産、4.5歳で年間分娩頭数500頭、平均分娩間隔は360日程度で、1年1産を実現している。年間70頭程度の繁殖雌牛を更新しており、直販の強みとして、消費者がどのような肉を求めているのかという情報がダイレクトに得られるため、その動向に合わせた改良、飼養管理をしている


繁殖牛舎

分娩牛舎


子牛は分娩房で出生後、5日齢で母子分離を行い、哺育牛舎に移動する。哺育牛舎は単房で30日齢まで人工哺乳され、その後ロボット哺乳牛舎に移動し10頭程度で群飼される。70日齢から哺乳量を減らし、2週間かけて段階的に断乳する。冬季には寒冷対策として畜舎両面のカーテンを下ろし、カーフジャケットとネックウォーマーをつけている。こうした徹底した保温対策によって、若齢子牛のエネルギー消耗を抑え、順調な増体を維持している。また、寒冷ストレスによる免疫力の低下を防ぐことは、呼吸器病や下痢症などの疾病発生を未然に防止するなど、衛生管理の面でも重要な役割を果たしている。


哺乳ロボット牛舎分娩牛舎


離乳後は100日齢前後で育成舎に移動して4頭1組で群飼される。基本的には肥育農場への移送後もこの同じ4頭での群編成を維持して飼育される。一貫生産の特徴を活かし、育成から肥育終了までの群編成を一定にできることは個体間の社会的な関係を安定させることでストレスを減らすことができる点で、生産的にもアニマルウェルフェア的にもメリットは非常に大きいといえる。


育成牛舎


肥育農場には黒毛和種用8棟、交雑種用14棟の計22棟の肥育牛舎がある。繁殖育成農場から黒毛和種の肥育素牛を年間200頭程度受け入れ肥育を行っていることに加え、ホルスタイン種×黒毛和種の交雑種を年間500頭程度、山形県の市場から60日齢未満で導入し肥育も行っている。

交雑種については、導入1週間は6L/日の代用乳を哺乳ボトルで給与し、その後は4L/日で給与している。
スターターを2kg/日食べるようになったら(約3か月齢)、離乳して育成配合に切り替える。哺乳時は冬季には寒冷対策としてカーフジャケットとネックウォーマーをつけている。


交雑種導入牛


その後は出荷までは32㎡の育成・肥育房で、同じ4頭を1群で群飼する。敷料にはおがくずを用い、1か月を目安に交換している。黒毛和種は29か月齢前後で出荷し、平均枝肉重量は去勢で530kg、雌で440kgである。交雑種は28か月齢前後で出荷し、平均枝肉重量590kgである。上物率(A4,5の割合)は黒毛和種がほぼ10割、交雑種では3割となっている。


肥育牛(前期)


栄養管理については、各ステージにおいて、牛の成長段階や生理状態に合わせた、きめ細やかな栄養管理を実践している。繁殖育成農場では、育成牛に対しては離乳後には育成配合、乾草を、繁殖牛に対しては市販配合、乾草、ヘイキューブを給与している。飼槽は給与ごと、給水施設は定期的に清掃し、清潔な状態を保っている。一方、肥育農場においては、育成農場からの移動牛も含め、育成、肥育前期、中期、後期別に調製したTMRを給与している。


肥育牛(出荷前)


2.ウシの観察と繁殖・衛生管理


両農場とも飼養環境や健康状態の把握は管理の際に担当者が目視で行っている。情報はパソコン等で入力し、1頭ごと繁殖、肥育、病歴から枝肉成績まで集積、集計、分析したデータがスマートフォンからも閲覧ができる独自システムが整備されている。観察と記録はアニマルウェルフェアを含む適切な飼養管理に不可欠であり、個体のデータをスタッフ間で共有・分析できる体制を整備し、異常の早期発見や的確な処置を実践している点は、生産面からもアニマルウェルフェアの面からも有効である。


繁殖育成農場においては、発情監視は繁殖担当の職員2名が毎日観察を行っている。初回種付けは13か月齢以降に体格を確認しながら実施する。分娩予定1か月前に分娩房を清掃の上、新たな敷料を入れて、分娩牛を収容する。分娩前には再度敷料を交換する。こうした衛生的な分娩環境の徹底は、新生子牛の疾病リスクを低減する基本ともいえる。監視は夜間には行っていないが、分娩房の片面が開放された構造になっていて、作業の合間などにもスタッフが観察しやすい構造になっている。また、身体が小さい個体など難産が予測される牛については監視カメラをつけて常時観察できるようにしている。このように敷料交換による衛生管理と重点的な監視で安全な分娩管理を行っている。出生した子牛には初乳の摂取状況をみながら必要に応じて人工初乳、保存初乳を給与している。今後は、開放型の分娩房における冬季の保温確保に留意することで、さらに子牛の健康を高めることが期待される。

衛生管理面では、農場入り口に車両消毒噴霧器を設置しているほか、更衣室、畜舎入口の踏込み消毒マットを設置している。繁殖育成農場においては、ワクチンは母牛への下痢症ワクチン、子牛への呼吸器病ワクチンなどを接種。吸血昆虫対策として殺虫剤を散布している。また、カラスの飛来防止対策としてレーザー装置を設置している。肥育農場では、導入された子牛は牛舎内に列で配置されたペンで単飼して、列ごとにオールイン・オールアウトで清掃・消毒を行っている。交雑種の導入時には呼吸器病ワクチン、ビタミン剤等を投与。吸血昆虫対策としては殺虫剤散布を行っている。両農場にはそれぞれかかりつけの獣医師が往診し、定期的に衛生状態や牛の健康状態をチェックしている。疾病や事故の発症時には、獣医師による速やかな診断・治療と、獣医師からの指示を受けスタッフが適切に予後管理を行っている。このように予防-診断-治療-予後管理の衛生対策の体勢がしっかりと整えられている。


3.AWに配慮した飼養管理等の実践


両牧場とも飼養管理については、アニマルウェルフェアの指標として用いられている5つの自由(①飢え、渇きからの自由、②不快環境からの自由、③苦痛、傷害及び疾病からの自由、④恐怖及び苦悩からの自由、⑤正常行動を発現する自由)に即した管理が行われている。

特に痛みを伴う除角および去勢について、農林水産省の肉用牛の飼養管理に関する技術的な指針では「実施が推奨される事項」として、それぞれ「実施の時期は、(中略)、角が未発達な時期である遅くとも生後2か月以内とし、確実に保定した上で処置する。この場合、獣医師による麻酔薬や鎮痛剤の投与の下で行うことが強く推奨される。」および「去勢を行う必要がある場合、(中略)生後3か月以内に行うこととし、3か 月齢を超える場合、なるべく早期に行う。」として、若齢での処置を挙げている。繁殖育成農場では1か月齢時に鎮静・鎮痛剤を投与して、除角は焼烙、去勢はゴムリング法によって行っている。また、肥育牧場の導入交雑種についても導入2週間後に鎮静、局所麻酔、鎮痛剤を利用し焼烙除角とゴムリング去勢を実施している。

一般的に子牛市場(特に黒毛和種)では除角されて上場される子牛は敬遠される傾向にあり、令和6年度の農林水産省が実施した取組状況に係る調査では、若齢での除角・去勢は実施率が低いことが示されている項目である。本牧場では若齢時(1-2か月齢時)に実施することで子牛のストレスを抑えると同時に、作業者の負担を軽減できている点でも優れており、若齢除角や去勢の先駆的な事例といえる。

なお、鼻環については育成段階では装着せず、作業効率の観点から捕獲が難しい角のない母牛のみに装着することで、最小限の装着にとどめている。


繁殖育成農場哺育房


また本グループ会社の農場は、農場HACCP、JGAPの認定を取得している。アニマルウェルフェアに関する情報はその一部として、確認・記録されるとともに、社内会議やメールにより全従業員で共有されている。農場HACCPに従い、各牛舎に災害などの緊急時の連絡先や規定が文章化されて掲示されており、職員の間で共有されている。また、警報機、発電機なども定期的に点検している。このようなアニマルウェルフェアの状態や実施状況については、JGAPの審査に合わせて定期的に確認されている。

農林水産省の指針では、緊急時の対応についての「実施が推奨される事項」として、「あらかじめ想定される事項に備える予防的措置として、避難計画を含む文書化された緊急時計画又は危機管理マニュアル等を整備し、これについて習熟するとともに、全ての関係者と共有する。」とされている。こちらも令和6年度の農林水産省が実施した取組状況に係る調査で、実施率が低いことが示されている項目である。本農場において、他の基準の認証等の取得を通じてアニマルウェルフェアに即した管理体制を「仕組み」として定着させている点は、他の農場におけるモデルケースとなる取り組みといえる。


場内各所に貼られている緊急連絡先