生産地の取組み

環境負荷軽減優良事例調査ー熊本県JA菊池のCBS,有機支援センターの事例

畜産環境整備機構の羽賀顧問、日本草地畜産種子協会の髙橋主幹に堆肥の広域流通を早くから手掛けられ、CBS(キャトルブリーディングステーション)も設置して地域の肉用牛の生産基盤を強化されている熊本県JA菊池に出かけていただきました 。
このうち堆肥生産における環境負荷軽減については、羽賀顧問が肉用牛生産における温暖化緩和技術としての堆肥化処理(羽賀氏)講演 (youtube.com)でも解説されています。まだの方は是非ご覧ください。


JA菊池の事例の概要
  • CBSは、預託乳用育成牛への黒毛受精卵移植産子や自己所有の黒毛繁殖牛等の人工授精産子、組合員が組織する会社の育成牧場からの黒毛和種子牛を哺育・育成。農場HACCP認証を取得するとともにICT機器も積極的に導入し効率的、安定的に年間500頭の肥育もと牛を管内肥育農家に供給。
  • 管内3か所の有機支援センターは、管内酪農家及び肉用牛農家からの堆肥を原材料とし、ペレット堆肥を含む良質な堆肥を効率的に生産、他JAとの連携等により、県外も含め広域的な堆肥流通を実現。


環境負荷軽減優良事例調査

―JA菊池におけるCBS(キャトルブリーディングステーション)と有機支援センターの取組―


(一社)日本草地畜産種子協会主幹
髙橋 博人

概要

  • CBSは、JA菊池管内酪農家からの預託乳用育成牛への受精卵移植(ET)や、自己所有黒毛繁殖牛等の人工授精(AI)産子及び組合員が組織する(株)アドバンス育成牧場から供給される黒毛和種子牛の哺育・育成により、年間500頭の肥育もと牛を管内肥育農家に効率的かつ安定的に供給。
  • 有機支援センター(菊池、旭志、合志の3カ所)は、管内酪農家及び肉用牛農家からの堆肥を原材料とし、ペレット堆肥を含む良質な堆肥を効率的に生産、他JAとの連携等により、県外も含め広域的な堆肥流通を実現。

1.はじめに

わが国の地球温暖化ガス(GHG)総排出量のうち、農林水産分野由来排出割合は約4%、畜産分野に限れば約1%となっています。畜産分野由来のGHGは、牛の曖気(げっぷ)によるメタン(CH4)と、家畜排せつ物管理過程でのメタンと一酸化二窒素(N2O)に大別されます。
また、我が国の肉用牛生産は、輸入濃厚飼料の多給と集約的な飼養管理が中心であり、環境負荷の高い産業分野となっています。畜産分野における地球温暖化対策として、無駄のない、効率的な生産等による生産物単位当たりの環境負荷物質排出量の低減が求められており、受胎率向上や事故率の低減等による効率的な肥育もと牛生産という視点と、強制発酵を用いた良質堆肥生産の効率化によるGHG排出量削減の視点から、熊本県のJA菊池におけるCBSと有機支援センターの取組について紹介します。


2.CBSについて

肥育牛産地であるJA菊池管内においては、良質な肥育もと牛の安定確保は長年の最大の課題でした。繁殖基盤の育成や、肥育経営の繁殖部門導入による一貫経営の確立を推進してきたものの、個別経営での規模拡大は限界となってきたこと等から、肉用牛経営の基盤維持ともと牛安定供給体制確立のため、畜産クラスター事業を活用してのCBS建設となりました。

平成28年度の畜産クラスター事業により、育成舎、哺育舎、繁殖牛舎等16棟、その他管理棟や倉庫・飼料庫、堆肥舎や浄化槽等の関連施設が、約67千㎡の敷地(旧泗水農協育成牧場跡地)内に配置され、平成29年9月から供用開始されています。(写真1)


写真1.CBS全景


事業部門は4つに大別され、①乳用育成牛預託部門は、管内酪農家より乳用牛を受託・育成して和牛受精卵を移殖、初任牛として酪農家へ供給 ②和牛繁殖部門は、CBS所有繁殖牛を飼養管理、人工授精により子牛を生産 ③哺育育成部門は、酪農家預託牛やCBS所有牛からの生産子牛の哺育及び育成管理 ④自給飼料・堆肥部門は、牧草収穫、堆肥化処理と関連機械装置の点検等、となっています。(写真2)


写真2.繁殖母牛舎


飼養頭数は、令和5年3月31日時点で、乳用育成預託牛205頭、繁殖母牛が207頭(黒毛和種200頭、交雑種7頭)、肉用もと牛361頭(哺育及び育成牛)の計773頭となっており、これらと、組合員酪農家が組織した(株)アドバンスの育成牧場から供給される180頭の肥育もと牛と合わせて、CBSから年間約500頭の肥育もと牛を管内肥育農家へ供給する地域内一貫体制を確立しています。(図)


図 キャトルブリーディングステーション事業フロー


労働力は、正職員4人、専門職員とパート職員16名の計20名に、業務委託獣医師1名です。哺乳ロボットや自動給餌機、発情発見機、分娩監視装置等のICT機器も積極的に導入、令和元年に農場HACCP認証を取得し、飼養衛生管理基準を遵守したもと牛生産と経営改善に努めています。

最大の特徴は、生産子牛の供給先が管内肉用牛肥育農家(JA肥育部会員)であり、市場販売をしていない事です。受託した乳用育成牛へのETは、受精卵及び移殖経費をJAが負担(移殖2回まで)し、生産された和牛子牛もJAが買い取ることで酪農家の収益を確保しています。移植する受精卵(年間700個)は、全農からの購入と併せ、国庫補助事業を活用してドナー牛群を整備し、現場採卵により確保する等、受胎率を高める工夫をしています。事業開始初年度のET受胎率は3割弱、AI受胎率は5割程度であったものが、直近令和4年度では、ET受胎率が59.2%、AI受胎率は65.2%となっており、地域(県)平均を上回る良好な受胎率となっています。

自給飼料生産は、約10haの農地を活用し、春はイタリアンの2回刈り、夏はヒエを作付し、繁殖牛に必要な粗飼料の約半分を確保しており、今後拡大を計画中。堆肥のほ場還元は勿論の事、余剰堆肥による発酵床についても試作試験中との事です。

また、組合員酪農家20戸で組織する(株)アドバンス(TMRセンターとしての業務が主)の預託牧場への受精卵供給により、子牛の生産頭数を確保する取組も進め、年間180頭の子牛をCBSへ導入する仕組みは、供給子牛の拡大と安定供給に大きく貢献しています。


3.有機支援センターについて

有機支援センターは、菊地、旭志、合志の3カ所にあり、施設面積合計は約14千㎡、開放型攪拌方式により、管内酪農及び肉用牛農家の糞尿を原材料として、ここ5年間は、年間6~7千tの堆肥(バラ、ペレット)を生産・販売しています。(写真3,4)


写真3.有機支援センター旭志

写真4.ペレット堆肥の袋詰装置(合志)


熊本県は、我が国の農業産出額ランキング(令和3年)で全国5位、うち乳用牛は3位、肉用牛では4位の農業・畜産県であり、JA菊池は、年間農畜産物販売高284億円の8割強が畜産物(1位は肉用牛)で、県内肥育牛の4割を占める大畜産地帯であります。よって、昭和57年の有機支援センター菊池の施設整備当初から広域流通を志向し、管外地域への移送、供給を前提として、当初、県内3カ所のJA(熊本、阿蘇、八代)に堆肥の保管庫(ストックヤード)を設置する等の取組を進めるとともに、JA福岡や佐賀、福岡県内の耕種農家・法人経営等への販売も行っております。バラ堆肥(袋詰め)での流通が殆どでしたが、徐々にではありますがペレット堆肥の生産・販売が増加しています。(表1)


表1 JA菊池有機支援センターにおける堆肥販売量の推移(単位:t)

項目 平成30年度 令和元年度 令和2年度 令和3年度 令和4年度
販売数量 6,357.7 6,904.2 6,684.2 6,475.5 6,910.7
内ペレット堆肥 310.7 319.2 358.6 354.2 433.4

ペレット堆肥は低水分のため長期保存が可能で、堆肥散布用のマニュアスプレッダーが無くても、耕種農家手持ちのライムソワーやブロードキャスターで散布可能です。圧縮・乾燥しているので重量・容積も通常堆肥の半分程度で済みますし、土壌中での窒素肥効の長期化も期待される、優れた肥料です。

JA菊池では、有機支援センター旭志で中熟程度(水分57~58%)まで処理した原料堆肥を有機支援センター合志へ搬入し、約1か月、発酵槽で完熟化、その後混合(鶏糞等)・攪拌、造粒機にてペレット化し、仕上げ乾燥(水分10%程度まで)して製品化(袋詰め、フレコンバッグ詰め)しています。(写真5)

写真5 ペレット堆肥の仕上げ乾燥装置(合志)


今年度からは、JA熊本経済連や民間肥料会社と協力して、堆肥と化成肥料等を混合したペレット状の堆肥入り複合肥料(エコぷらすシリーズ)を開発・販売し、耕種農家がより利用しやすい肥料の供給も開始しました。

ペレット化の最大の課題はコストであり、造粒装置が高価であることに加えて、造粒するために堆肥の水分を25~30%以下に低下・乾燥する工程が必要で、特に、現状の天日乾燥においては、広い乾燥舎面積と時間を要し、コストアップの主要因です。この対策についても、現在、研究機関等と検討中です。

JA菊池有機支援センターは、県の認定制度「堆肥の達人」を取得する等品質向上に努め、令和3年度から2年連続で熊本県堆肥共励会大賞である「熊本県知事賞」を獲得しています。高品質な堆肥生産(好気的な発酵の促進等によるGHGの排出削減)の推進により、堆肥処理・供給量を拡大していくこと(堆肥処理に時間と手間をかけられない個別農家の堆肥処理を請け負う等)は、大畜産地帯である菊池地域において、着実にGHG排出量を削減可能とする手法であると考えられます。


4.おわりに

JA菊池の今後の取組について、現在の課題を踏まえて期待すべき事項について考えると、まず、CBSについては、更なる受胎率の向上と事故率の低減等による生産効率の向上、が望まれます。加えて、地域一体となった飼料自給率の向上により、輸入(購入)飼料の削減等による、環境に優しい、持続可能な地域畜産の実現です。

有機支援センターについては、前述の通り、広域流通の推進等による堆肥処理・販売量の拡大を通じた堆肥事業の安定化です。新たな連携先(JA大浜(玉名市)等)を確保するとともに、県内のみならず、県外各地域の耕畜連携協議会との連携を深める取り組み(製品のPR 、散布機械の充実、ほ場条件の整備等)を、きめ細かく、地道に展開していくことが求められます。規模拡大や労働力不足等による、個々の畜産農家の負担増となる堆肥処理に係るコスト(労働時間等)について、JAが引き受ける(代行する)ことが、菊地地域畜産の維持・拡大に直結すると思われます。